「カメラを止めるな!」はおもしろくてもったいない


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7年ぶりにここを更新することになるとは。




カメラを止めるな!」を見てきました。書きたいことができたので以下に。


以下ネタバレです。
カメラを止めるな!」(以下「止めるな!」)は、ワンカットのホラー映画「ONE CUT OF THE DEAD」(以下「OCOTD」)を撮影するまでを描いた映画であり、つまり劇中劇ものであるのだが、しかし「OCOTD」もまた「ゾンビ映画の撮影中に本物のゾンビに襲われる」という構造になっている。ここで撮影されていた映画のタイトルは不明だが、ここでは仮に「X」とするならば、「X」は「OCOTD」内の劇中劇であり、つまり「止めるな!」内の劇中劇中劇である。

「止めるな!」は低予算ながらそこかしこで高い評価を受けており、見た人のほぼすべてが満足したと感想を述べる稀有な作品である。自分も大変に楽しんだ一人ではあるのだけど、しかし見終わった後、どうにももったいない感が拭えずにいた。「劇中劇中劇」であることが生かされていないのだ。

すでに完成している映画の、しかも世間的に高い評価を受けている作品を「ここがこうだったらもっとよかったのに」などと口を出すのは大変に野暮な行為ではあるのだけど、それでも自分がすっきりするために書き出してみた。そしてせっかく書いたのだからと公開してみる。生意気な話ではあるけれど、感想・ご意見などいただけると幸いでございます。


以下は「止めるな!」の設定を一部変更し、構成を再編集する際の一案である。



オリジナル版と異なり、監督の日常パートから。ただし家族や出演者はまだ登場しない。金銭的に追い詰められ、ここらで一山当てないと後がない、切羽詰まった状況である描写。ホラー映画をあれこれと研究し、ネットで怪しげな噂を目にするシーン。


監督自らケーブルテレビ局に「今までになかった恐怖映画を撮りますから」と売り込みに行くシーンを挿入。ここで鬼気迫るような演技。ここで売り込み先がケーブルテレビであることを伏せておけば、観客はここが映画製作会社だと勘違いしてくれる。




場面変わって撮影現場。ここからは「OCOTD」パートのまま。冒頭で「X」の撮影シーン、ゾンビに襲われる演技が拙いヒロインにカットをかけて厳しい演技指導をする監督登場。ここで観客は、先ほど売り込んでいた映画の撮影が始まったのだなと思う。
助監督に屋上まで血のりを運ばせ、ゾンビ登場。怖がるヒロインの顔を喜びながら撮影する監督、恐怖のリアリティ欲しさに自ら死者を蘇らせたことを告白。これで観客は、監督の言う「今までになかった恐怖映画」とは本物のゾンビを出す事だったのだと思い込む。

そのまま「OCOTD」パートは進み、エンディングで屋上に血で描かれた星の上に立つヒロインの姿。ただしここで「ONE CUT OF THE DEAD」のタイトルは出さず、その直前あたりでカット。もちろんスタッフロールや「はいカットー!」の声もここでは入れない。



撮影1か月前に戻り、テレビの再現シーンを撮影する監督・妥協せずに子役に目薬を使わせない娘などのシーン。妻は昔女優をやっていたが現在はメイクの仕事をしているという設定に変更。アル中の俳優はまだ登場しない。

再び売り込みのシーンをなぞり、顔合わせのシーンからリハーサルへ。主演の二人を除き、誰が出演者で誰がスタッフなのかわからないよう描写する。(全員スタッフTシャツを着ておけばよい?)「ゾンビは斧を使わない」「ゲロかけられるのはちょっと…」などのシーンはそのまま。他の「X」の撮影スタッフ役である、アル中の俳優・胃腸が弱いスキンヘッド・腕をちぎられるメガネの青年などはそのままスタッフとして機材を持つなどしておき、まだ彼らが「OCOTD」の俳優であるという事実を観客に悟らせないでおく。

このあたりで、この映画が「ワンカット」で「生放送」であること、この作品のタイトルが「ONE CUT OF THE DEAD」であること、映画でなくケーブルテレビであったことを観客に分からせておく。



本番の日。監督の妻と娘は現場に見学に。そこに「監督とメイクが事故にあった」と知らせ(「監督役の俳優」と「メイク役の俳優」はそこまで登場しなくてもよい)。仕方なく監督が監督役を、その妻がメイク役を買って出る。

本番スタート。各俳優はスタッフの役を演じる俳優だったのだと明かされ、ここで初めて、この監督が撮影していた映画が「X」ではなく「OCOTD」の方であったことが、つまり前半部分で見た「ホラー映画の撮影現場で起こった惨劇」がフィクションであったこと(この映画が三重構造になっていたこと)が観客に明かされる。

トラブルに遭いながらも本番は続き、人間ピラミッドの上の肩車でラストカットを無事撮影。映し出されるタイトル「ONE CUT OF THE DEAD」と流れるスタッフロールを局で見て喜ぶ関西弁のプロデューサー達。