「華氏911」(ネタバレ注意)

本国では映画館の出口に選挙人登録用紙が用意されていたほどの反共和党プロパガンダ映画であることは承知の上で見に行ったのだけど、どうにも「楽しめなかった」。そう、前作「ボウリング・フォー・コロンバイン」は銃乱射事件という人の生き死に関する問題を見せながらも観客を笑わせることに成功していたドキュメンタリーだったのに、今作は真面目なブッシュ批判でしかなく、言ってしまえばムーアである必要がない。「残酷な現実を知りながらかつ笑える映画」ではなくなっていたのだ。
多くはニュース映像の(時には家庭用ビデオで録画したと思われる画質の)寄せ集めで構成されており、ムーアの持ち味である(日本でムーアを表する際によく使われるキーワードをここでも用いるならば)「電波少年的な」その体当たり取材も今回はほんのちょっと。だってさ、ゲスな事言えば、アポ無し取材の面白さってのは結局「明らかに目の前の松村邦弘(ムーア)を迷惑に思いながらもカメラの前だから邪険には扱えずに困る対応者」の顔を見ることでしょ?そりゃあっちこっちでインタビューをしてるのはムーア本人かもしれないけど、カメラの後ろから声だけ出すだけじゃなくて対応者とのファーストコンタクトを映さなきゃ。
何より今作には前作での「Kマートの弾薬販売停止」のような着地点がないのがどうにもスカッとしない原因だ。確かにブッシュ再選阻止が一番の着地点なんだろうけど、それはムーアにとっての着地点なんだよなあ。

最後に。WEB上で現在公開中の映画の感想を書く最低限のルールとして上に「ネタバレ注意」と書いたけども、しかしこの映画にネタも何もありはしない。全ては今この世界で起きてる現実なのだ。「世界情勢のお勉強」という意味でも何でも、少しでも見ようという気があるのなら悪いことは言わないからすぐにでも劇場に足を運ぶべきだ。次期大統領選挙が目前に迫った今がこの映画を一番スリリングに楽しめる次期なのだから。ブッシュが再選しようとしまいと来年になってからビデオで見たって全然面白くないよこんなの。