ユリイカ11月臨時増刊号を読みながらBLについて考える

買ったよ。
第一話をジャンプ誌上で読んでから早幾年、なんでも最近はケンコバやらしょこたんやらのお陰でジョジョブームらしいじゃないですか。いいことです。
そしてこの荒木特集号、どの稿も切り口鋭く実に読ませる考察ばかりだったのだけど、ひとつ電車内で読んで吹き出したものがあったのでこちらにご紹介します。巻頭の荒木飛呂彦(漫画家)・斉藤環(表象精神病理)・金田淳子社会学)の三名による対談記事から。やおい的目線で読むジョジョ

金田
仗助が承太郎を尊敬していて、この人といると誇り高い気持ちになれるというんです。この関係が非常によくて、これはもう一線を越えるのも近いなと(笑)。
荒木
それは深読みし過ぎじゃないかな(笑)。
編集部これがやおい的な読み方らしいです。そういうところに興奮するというか。
荒木
そうなんだ(笑)。それはもろに描かれないほうがいいんですか?
金田そうなんです!あからさまに描かれてしまうと妄想する余地がないので興ざめなんです。ハンティングの回にしても、ありえないと思いますけど、「狩りも終わったし、行くか?ホテル」みたいになっていたら、それはやりすぎ!となっていたと思いますね(笑)。

この対談自体はこんなことばっかり話してたわけでは決してないんですけど、このあたりから金田センセの腐女子的目線が披露されてきて実に興味深いです。

金田ディオはもともとはジョナサンのことが好きだったということなんですよね。
荒木ああー、そうなるんだ!?(笑)
金田
自分の持っていないすべてを持っている男、ジョナサン・ジョースターに俺もモノにされたい、ぐらいの気持ちで。エリナがジョナサンに最初にキスをするのが許せなくて、自分がエリナにしてしまったと。
荒木
そこまで行くと、ギャグっぽくなるよね(笑)。
金田
いや、でもディオは真剣にジョナサンのことを思っていて、でも当時のイギリスだと同性愛は重罪だから、その本来の欲望はディオの中ですら隠されていたんですよ。
荒木
それはありえるかもしれないですね。

荒木センセ優しいなあ(笑)。

金田そこで溜めに溜められた気持ちが最終的にジョナサンの身体を乗っ取るということに行き着くわけです。
(略)
ジョナサンになりかわりたいんです。でもそれが結局ジョナサンになりかわりたいのか、ジョナサンのことが欲しいのかがわからなくなってしまうということだと思うんです。
(略)
ディオの、ジョナサンの血統が欲しいのか身体が欲しいのか心が欲しいのか、もう俺にはわからないといった混濁ぶりはやおい的にはとてもおいしいんです。

この「ディオがジョナサンを思っている」という、いわゆる腐女子目線だけど、これがよくよく考えてみるとさもありなんではなかろうかと思ってきた。いやこれも一つの思考実験でしかないのだけど。そもそも腐女子目線というもの自体が思考実験と言えるわけだし。
そう考えれば一部のラスト、首だけになったディオがジョナサンの前に「このディオのなさけなき姿をあえておまえの前にさらそう」と言ったあたりなんてまさに「大事な人になら恥ずかしい部分を見せてもいい」と覚悟しているシーンだし、その後文字通り「合体」してしまうわけだし。金田さんの言うとおり、ディオはジョナサンならびにジョースター家を「奪うことで愛す」と考えると合点がいくわけだ。そうなるとジョナサン・ディオ・エリナの三者が揃うあのシーンはまさに三角関係の痴情話であって、"女なんかを選んだ"ジョナサンを憎みながら心中しながら同時に合体もするという結末はまさに究極の愛を描いていると言えるわけですよ。ジョナサンも最期は「ぼくらはやはりふたりでひとりだったのかもしれないな」と認めてるし。
BLの世界では生物学的事情を無視し、男同士のカップルが子供を作ることもそう珍しい話じゃないと聞くけども、実際ジョルノはディオとジョナサンの間にできた子と考えることもできる(母親がほとんど描かれないのはそのためか!)。第四部主人公の仗助が承太郎の叔父であるように、第五部主人公のジョルノはジョセフの叔父であるとも言えるわけだ。徐倫と合わせ、これで六人の主人公達はめでたく直系で結ばれたことになる。これまで仲間はずれと思われていたジョルノもこれでようやくジョースター家の仲間入りだ。よかったよかった。