統計学と麻雀

今月号の近代麻雀ゴールドの「バビロン大学 麻雀科学研究学部」という記事で「三暗刻四暗刻はどちらが有利か?」という問題について検証している。タンヤオ赤1の手でシャボ待ちの四暗刻にとるべきか、または両面待ちの三暗刻にとるべきかという問題。これを7781件の聴牌ケースととその上がり数による期待値計算で判定する、というのがこの記事の概略であるが、読んでいてどうも引っかかる点がある。
結論としては三暗刻の方が有利であるというものになっているのだが、果たして本当にそうだろうか。

記事中で根拠としている3つの表は以下の通り。

表1:総アガリ数に対するアガリ回数(率)
総アガリ数:3659回
ロン:2541回(69.4%)
ツモ:1118回(30.6%)

表2:総テンパイ数に対するアガリ回数(率)
総テンパイ数:7781回
ロン:2541回(32.7%)
ツモ:1118回(14.4%)

表3:総アガリ数に対するアガリ回数(率)

テンパイロンツモ
リャンメン354415.9%6.2%
9枚以上5143.0%3.5%
カンチャン14525.7%1.4%
シャンポン9923.3%1.4%
タンキ6031.8%1.0%
変則待ち2621.5%0.3%
ペンチャン3221.0%0.3%
ノベタン920.5%0.3%

ここで表3を見て頂きたい。「総アガリ数に対する」と書いてあるはずなのに割合の和が100%に満たないのだ。念のためロン・ツモそれぞれの縦枠ごとに割合を足していくと、表2の数字と一致する。つまりこの数字は「総アガリ数に対する」ではなく「総テンパイ数に対する」割合であったのだ。
それだけならまだいいが、なんとこの表を用いての期待値計算を「上がり点数×表3の割合」としているのだ。表3の割合はあくまで出現率であって上がれる確率ではない。確率を求めたいなら「そのテンパイ形での上がりケース数÷そのテンパイ形でのケース数」とするべきなのに、表3は「そのテンパイ形での上がりケース数÷全テンパイケース数(7781件)」で求めたものなのであるのだ。つまり「よく出現するテンパイ形ほど上がる確率が高い」というおかしな結論が導かれている事になる。実際表3の最下段を見るとノベタンの上がり率が「ロン:0.5%、ツモ0.3%」となっている。ノベタンは0.8%しか上がれないってことはいくらなんでもないだろう。
というわけで、僭越ながら私がこの記事を書き直してみようと思う。
まずは表3を書き直す。例えば両面ロン上がりの(総テンパイに対する)割合は15.9%だそうだから、ここから逆算して「両面ロン上がり」は1237件あった事がわかる*1。以下同様に計算し、得たのが以下の表である。

テンパイロンツモ
両面35441237482
シャボ992257109
ここから「各テンパイ形に対するアガリ率」を求めると、
テンパイロンツモ
両面354434.9%13.6%
シャボ99225.9%11.0%

これがそれぞれの正しい「上がれる確率」である。これをもとに期待値を計算すると、
○シャボ待ち ツモ上がり
32000×0.110=3520
○シャボ待ち ロン上がり
12000×0.259=3108
○両面待ち ツモ上がり
12000×0.136=1632
○両面待ち ロン上がり
8000×0.349=2792
以上の数値から、やはりツモり四暗刻はシャボ待ちに取る方が有利である、という結論になった。危うくゴールドの記事を信じるところだったよ。
あとモンドで梶本プロが「字牌の地獄待ちは1/2の確率で上がれるらしい」と言っていたけど本当なんだろうか。ロン・ツモ合わせても両面待ちで上がれる確率が48.5%だから、本当だとすれば「最も有利な待ちは地獄待ち」という新セオリーが誕生することになるのだけども。

*1:推測値。15.9%という値は小数第二位を四捨五入して得られたものであると考えられる為、実際の割合は15.85%以上15.95%未満。ここから逆算すると両面待ちロン上がりの件数は1234〜1241件となるが、以降の議論を簡潔にするためここでは15.9%=0.159という割合から逆算された値に最も近い整数値を採用した。