ONE OUTS読破日記(1巻)

ONE OUTS 1 (ヤングジャンプコミックス)

ONE OUTS 1 (ヤングジャンプコミックス)

知人から甲斐谷忍ONE OUTS」を譲り受けたので読み出したのだけど、いやあなんだこれ面白いぞ。一話読み終わるたびにそのオモシロを噛み締めてしまってすぐにページがめくれない。というわけでまだ全巻読み終わっていないけどこの感動を伝えたいのでこれから1巻ずつ感想書いていきます。もちろんネタバレなんで以下畳みます。
結果だけを書きたい野球マンガ
僕は野球マンガというもの自体特に好きでも嫌いでもなく、野球マンガ読暦としてはそれこそ小中と読んでいたジャンプ・マガジン・サンデーに連載されていたものくらい、つまり「バツ&テリー」とか「名門!第三野球部」とかくらいであった(「山下たろーくん」は読んでなかった)人間です。そんな人が書く感想だと思って読んでいただければ。
「マンガの絵を描くというのは何を描かないかを選ぶことだ(大意)」と言ったのはいしかわじゅん氏だったか、ともかくマンガは現実と違ってその場に見えるもの、聞こえるもの、起こったことを全て見て聞いて感じられる必要はないんですよね。麻雀マンガでライバルの二人以外の脇に座る二人が何もしないのと同じように。で、野球マンガにおける一対一の対決を書くとなったとき、守備や走者など余計なものを排除していくとこのワンナウトというゲームになるわけですね。そうか。一対一の構図が書きにくいんだったらルールの方を変えてしまえば良かったんだ。
ここで思い出されるのが福本信行の書く麻雀マンガであります。彼は「天」では待ち牌を当てる二人麻雀、「アカギ」では鷲巣麻雀、「カイジ」では17歩と次々と変則ルールを書き続けるのは、つまり書き手にとってドラマを描きやすい場=ルールを創作しているからなのでしょう。甲斐谷忍は福本の影響を受けていたりするのかな?
さて絵について。一応この話はピッチャーが主役なのだけど、にも関わらず描かれる「球」は止まったものばかりなんですよね。渡久地が持った球と投げた後壁に当たって跳ね返った空中の球は描かれても、その間、マウンドからバッターまでの流線を描いたことがほとんどない。あったのは「フォークの握りを見せておいてストレート」だったあの中根に投げた三球目くらいのもんで。
なぜ渡久地の投球は流線で描かれないか?
一つ考えられるのは、「110キロのストレート」を絵で描いてしまうと、それをプロが打てないというこのお話にリアリティがなくなってしまうせいじゃないでしょうかね。「球威のない球」を見た読者に「こんなの打てるじゃん」と思われるより早くただ空振りしたという結果だけを見せてしまえということで。
あるいは作者自身が球筋を描くことに興味がないのかもしれません。投げた球がどうなったかの「結果」だけ書ければいい、と。事実渡久地が投げた球がその次に描かれるのは「後ろの壁に当たって跳ね返った次の瞬間」ですし。


(1巻44ページ)

ところでこの中根に投げた一球目の絵、初めて読んだときは外角へ外れたボール球にしか見えませんでした。文脈からストライク取られたことがわかって、ようやくこの絵の見方がわかったんです。この丸い球は「壁に当たって跳ね返った空中の位置」であって、実際壁に当たった位置は外角低目の、つまり書き文字の「ン」の真ん中当たりの位置だったわけです。そう、この絵は一球目の「結果」なのだけど、あまりにも結果だけを書きすぎてボールの動きがよくわからない、そんな絵なのでした。