生き物を殺して食べるということ

HUNTER X HUNTER 1 (ジャンプコミックス)

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(以下ネタバレあり)
少年マンガの悪役に人を食う生き物が登場するのは珍しい話じゃない。
食われたくない人間の味方をする「正義のヒーロー」は、その敵を倒す。めでたしめでたし。

冨樫義博の作品には、人を食う人の形をした生き物がよく登場する。
共通しているのは、彼らが生きるために他の生き物を殺すということに対し、ただ単純に否定せず、仕方のないことだと描いている点である。「幽☆遊☆白書」で幽助は妖怪が人を食うのを「食事の問題だ」と受け止め、「レベルE」では異性を食べてしまう宇宙人に同情し、そして「HUNTER×HUNTER」で虫の王は命乞いする人間に「お前等は牛や豚の命乞いに耳を傾けたことがあるか」と問う。

遅ればせながら、「HUNTER×HUNTER」を単行本で読んだ。再新刊まで一気に。
あらゆる種類の「おもしろさ」がごった煮になったこの作品について語るのは難しいのだけど、引っかかったのはやはり虫の王の理屈であった。人を食う敵と、我々人とに何の違いがあるのか。これまでの作品の中でも、一番はっきりと描いたシーンだと思う。

言い換えれば、それは富樫自身が生き物を殺して食べるという行為に対し無関心ではいられないということだろう。だからこそ作中ではしばしば人は食われる側の立場に立たされ、そしてそれは容易には解決されず、それは自然なことであるとも描かれるのだ。
食わないにしろ、作中で「強き者」はおそろしく簡単に「弱き者」を殺す。そのあっけなさは一部のシーンではギャグとして描かれるが、ほとんどはその「強き者」の強さの表現だ。これはいわゆるバトル漫画でよく見られる手法ではある。
ただ富樫の作品内では、その「強き者」は自分が殺した相手を見ない。例えばキルアが誰かを殺すとき、死にいく様を見ないまますれ違い、背中を向けてから相手が絶命する。これは殺すことに感情が動いていないこと、関心がないことの表現だ。

読めば読むほど疑問なのは、この作品はどうして少年誌に連載している(できている)んだろう?ということ。少年に読ませていいんだろうか。少年はここまで読みとれるんだろうか。